STUDIO AUPA
 


第2回 スカウティングとは、プレーの本質を見抜く「目」

 育成コーチとしての道を歩んできた小野氏であったが、今回のワールドカップ予選を通してマスコミが彼に貼ったレッテルは「スカウティングのプロ」であった。小野氏自身はこの「称号」は必ずしも本意ではないようである。しかしながら、小野氏が培ってきたスカウティングのノウハウが、日本代表のワールドカップ出場に大きな役割を果たしたこともまた事実だ。

<自分の「目」がすべて>

 必要な装備はないですね(笑)。「目」がすべてです。
 実際には、背番号を確認するために小さい双眼鏡はもちますけれども。でも双眼鏡でゲームは見れないですから、しょっちゅう使うものではないですよ。

 また、同じチームを何人かで見ることもあったりするので、一元的に情報を管理しなきゃいけない。で、スカウティングシートというのを作って共通のフォーマットの中に情報が残せるような形をとってます。自分たちが作ったオリジナルのものです。

 ビデオは自分では撮らないです。ビデオ撮りだしたら試合は見えないんです。ビデオは何か他の形で入手しようと。日本チームの戦いは撮りますけどね。でも、海外に(一人でスカウティングに)行って見たりというときには撮ったりしないですよ。ええ、一人で行きますよ。どこでも。

 基本的には「目」だけなんですよ。スカウティングのために必要なのは「目」で、人に伝えたり残したりするためにスカウティングシートやビデオがあるっていう感じで。自分が自分のためにやる分には「目」だけあればいい。

<どこに「目」をつければいいか>

 プレーの「本質」を見ることですね。結果ばかり見ないで。
 たとえば素晴しいゴールが決まったと。「素晴しいシュートですね」とは誰でもが見える部分なんですよ。あるいはその1つ前の「すごいパスですね」くらいまでは誰もが見ることができる。

 でも、勝負を、そのプレーの白黒を決めたところというのは、そのもうちょっと前とか、ボールがまったくないところとか、そういった駆け引きの中で生まれていることが多い。ボールを受ける前のちょっとしたステップだったり、チェックの動きであったりとか。そういった勝負の決め手になったプレーは何なのかなと。それを見逃さないことが、すごく大切なポイントだと思うんですよ。

 まっさらな目で見ることももちろんあるんですが、できれば事前にある程度の情報を持ってから見れればそれにこしたことはない。もしビデオとかが入手できるんであったら、あらかじめ少し見ておく。

 あとはとりたてて特別な準備というのはないですね。
 特にこの選手を見ようって感じで見ることはあまりない。中心選手だといわれている選手がいるとしても、はたして本当かどうかはわからないですから。そんなに目立たないですけれどもチームにとって重要な働きをしてる選手なんかはしっかりと見なきゃいけない。

<先入観は禁物、自分の目だけを信じる>

 キーとなる選手は最初から頭の中に入れていかなくても試合になればすぐにわかりますからね。自分の目の方を大切にすればいいんであって。この選手はスゴイらしいとか、そんなのは先入観をつくっちゃうだけなんでね。客観的な情報だけは持った方が得ですけども、それが先入観になっちゃうというのは危険。ゲームは自分の目で、自分の目を信頼して、自分の尺度で見ないと。

 ゲームが始まると、並び(システム=4−4−2、3−5−2など)と背番号だけはまず初めにチェックしちゃいますね。対戦相手の分も。相手の並びをいれてかないと、誰がどの選手を見て(マークして)、どこで数的優位が生まれるかというのがわからないんで。あとは、どういう手順でというのはないですよ。

 最初は誰もがボールがあるところしか見えないと思うんですよね。本当に大切なプレーというのはえてして見逃して。
 何故その選手がフリーになったのか。何故ここでうまくパスが出たのか。その辺っていうのはボールがないところでいろんな駆け引きがありますから、そっちを見てかなきゃならない。

<レベルの高い試合ほど、ボールのないところが重要>

 だから、ボールがないところも見るようにしましょう。とは言えますけど、じゃどうやったら見られるか、って言ったらね、これはやっぱり数多く見る。いい試合を、レベルの高い試合を数多く見る以外ないんじゃないかと思います。レベルが低い試合というのはボールのあるところがかなりの勝敗のカギを握るし、そこが中心になるんですけど、レベルが高くなればなるほどボールを持っていないところが重要性をもつ、大切になってくる。

 サッカーには3つの局面があるんですよ。
 ボールを持っている時、いない時、攻守が切り替わる時と。
 そのへんを整理していけばゲームの本質は浮かび上がってくる。
 良い選手という評価は、ボールを持っている局面に関していうのがほとんどなんですけどね。本当に怖い選手のキーとなるプレーは、ボールがない時、あるいは切り替わった瞬間に出てきますね。
 そこが抑えどころであり、狙うべきポイントであると。

<「こうすれば怖くない」と伝える意味>

 例えば韓国のチェ・ヨンスなんていう、ヘディングのものすごく強い選手がいたとする。ヘディングが強いという現象をいくらとらえたとしても「彼はヘディングが強いよ」と選手に伝えたって無意味なんですよ。知っていようがいまいが強いんですよそれは。強ことを知ってたからって、ヘディングが急に勝てるはずもない。「彼、強いよ」って伝えて勝てればいいですけれど、なかなかそうはいかない。
 そしたら彼に自分の体勢で自分の型にはまったプレーをさせないように心掛けていけばいいわけです。ボールなしの動きの特徴を読んで、そこに供給されるボールがどういった形をとるのが一番怖いのか、そっちを封じない限りはヘディングの高さ自体を封じることはできないわけです。

 現象じゃなくて、その周辺のところを分析して。伝えるときも「こんなに怖い選手だ」だけじゃ情報の伝達とは言えない。こういう選手だよ、こういう風になると非常に怖いよと、だけれどもこういうふうにすれば必ず抑えられるんだと、怖くないんだと。いうことまでを選手に示して初めてスカウティングの意味がある。

<説明ビデオは12分まで>

 (編集するビデオの種類は)相手チームが全体的にわかるような感じのダイジェストビデオと、試合の何日か前に戦術を考えるミーティングで、自分が説明するためのビデオ。あとは個人用に見せたりしますけれども、大まかにはその2つ。

 ダイジェストの方は、特にある意図を持って作ってるわけじゃない。
 食事中とか気軽に見たいときに見て、途中で部屋に戻るのもよし、って感じで。
 説明するためのビデオは、12分くらいを目安に考えてる。必ずしもその通りにはならないけれども。12分くらいっていうのは、それを越しちゃうと集中力がなくなっちゃいますし。

 自分たちで撮ったビデオがあれば一番いいんですけど。最終予選なんかは、日本戦は撮ってましたんで、2回目に対戦するときはそれを使いました。でも、初めて対戦するような相手には、スカウティングにビデオ部隊まで連れていけないんで、あるビデオの中から使いたいところを捜して、それで伝えていくしかない。

 自分たちで撮ったビデオではない場合、思ったところが(画像に)入ってないっていうのは多いですよね。でも、写っている場面というのは何試合かやれば1回か2回はあるんで、それを使う。まったくない場合は説明しながらビデオを見せると。でも画像のどこかに結構出て来るんですよ。

 普通の人がそのプレーを見てても「ああすごいドリブルシュートだ」と思うだけだったとしても、実は横にいる選手がDFを引き連れて「デコイ」っていう囮の動きで逃げてるとかね。画面には出てても気が付かないプレーってたくさんあるんですよね。そこをちゃんと説明していけば、大事な部分っていうのは伝えることができる。

<たくさん集めて、なるべく絞る>

 本当に大事なことだけを伝えるって感じですね。情報はたくさん集めて分析するんですけど、伝える情報というのは少ないですね。
 情報過多になると、かえって自分たちのサッカーを見失って、受け身のサッカーになっちゃうと思うんですね。まずは日本のサッカーをしっかりすれば勝てるんだと。「こんなに怖いとこがたくさんある」じゃなくて、イランといえども韓国といえども、ここさえしっかり抑えとけば怖くないんだぞと。いうような感じで。

 極力情報というのは絞って絞って、捨てて捨てて。そして本質のとこだけを伝える。途中からは情報を捨てる作業ですよね。ただ、何を捨てればいいのか、何を残すべきなのか、というためには情報を極力集めなきゃいけない。捨てるためにはたくさん集める。中途半端な情報では本質が何なのか見極めきれないですからね。
 最後はポジティブなイメージが持てるように伝えると。

(つづく)