STUDIO AUPA
 


第3回 必要なときに必要に応じてプレーできることが世界に通じる道

<監督、コーチは想像以上に雑務が多い>

 アジア最終予選の「緊急事態」に代表チームに帯同。その後コーチに就任した小野氏は、どんな思いでその責務を遂行したのだろうか。

 コーチというのは監督のサポートというのが大きいと思う。
 スタッフというのは監督も含めて、チームが最高のパフォーマンスに持っていけるように力を引き上げていく、引き出していくっていう仕事だと思います。その中で監督の持っている力を最大限に発揮させられるようにサポートするのが、コーチの仕事だと思う。

 監督、コーチっていうのは、皆さんが想像してる以上に雑務がたくさんあるわけなんです。合宿の日程考えたりとか、各方面といろんな形でコンタクトをとったり、デスクワークもあったり。その中で自分ができる部分は、監督の手足になってやっていこうと。

 基本的に自分のサッカーと岡田監督のサッカーとの間にほとんどズレがなかったのはすごくラッキーだったんですけどね。でも、少しでもズレがあったんじゃ困るということで、――ある意味で突然合流したわけですから――監督の言葉の端々から意図するサッカーというのを自分なりに解釈して、それが自然にいくようにピッチの上でもサポートしていきました。

<たくさんある課題のなかで、最低限クリアしておくべきことがある>

 (岡田監督との面識は)いつからといわれると余りよく覚えていないんですけれど、ずいぶん前からですね。一緒のチームに所属したとか、そういう経験はないんですけれども。岡田監督はずいぶんいろんなところによく勉強しに行くかたで、そういうときによく声をかけてもらってたんですね。トレーニングのこんな理論があって、3日くらい勉強に行くんだけどお前ついてくるかっていう感じで。

 あと、アトランタ・オリンピックで、チームは負けたけれど、岡田監督と2人で最後まで残って一緒にゲームを見ながら話をしたとか。また、スカウティングチームのチーフとしてやってたんで、(コーチだった岡田氏とは)当然つながりがあった。
 岡田監督にとっては自分はすごく使いやすい存在であったと思うんですよ。

 (最終予選のさなか)本当に時間のない中で、何をどこまでやるのか、監督として一番頭を使った点だと思います。その意図ができるだけ実現できるようにと自分も心掛けた。
 やりたいことといったらいくらでもある。改善しなきゃいけないことはたくさんある。それをすべてやっていけばいいのかというと、そうじゃない。それもこれもあれも改善しようという形で、どれも中途半端になったら、一番自信のない状態で試合に臨まなきゃなんない。中途半端な形で送り出すことが最悪だと思うんですよ。

 こことここだけは高めとかないと次の相手はこうだと。最低限クリアしとかないと、というターゲットを最初にキチッとしとかなきゃいけない。他のところは残念ながら目をつぶっていかなきゃならない。ある課題を「これだったらいける」と自信を持って最後に送り出せなきゃいけない。

<岡田監督が頭をフル回転させるとき>

 岡田監督の頭がフル回転するとき、っていうのは、例えば国立競技場で夜試合が終わると選手を解散させる。翌日の夜12時にまた集合だとする。監督も家に帰って休むんですけど、その時が一番頭をフル回転させてると思うんですよね。
 次は韓国戦だ、次はカザフだ、次はイランだ。どうしようかと。このへんがうまくいってなかったとか色々あるわけですよ。じゃ何を植え付けようかと、どの部分をどこまで高めようかと。

 どういう形で試合に送り出すかを考えてそこから逆算されてトレーニングを考えてかなきゃならない。明日何しようじゃないんですね。
 最後にはこういう状態で送り出したい。前日はコンディションの調整だけだと。その前の段階ではここまで完成させて、紅白戦をやりたい。そうするとメンバーはここで見極めなきゃならない。となると最初の2日間が勝負だと。そこの時点で何を高めなきゃならないのかと。いざ選手が集合してきたときにはキチッと整理されてないと掌握できない。

 オフの間の1日、体はリラックスさせながら頭はフル回転させてたと思いますよ。で、当日は大体3時から4時くらいになると電話がかかってくるんですよ。「ちょっと早めに集まろうか」といった感じで。

 (そうした状況の中だったけれども調整は)比較的うまくいきましたね。それは監督が個々の選手をよく把握していた、どのあたりの要求までうまくこなせるかをちゃんと把握していたから。低過ぎもせず高過ぎもせず、ハードルを提供できたことが良かったと思います。

<名波のディフェンス面での仕事、山口のボランチ能力は大きかった>

 日によってずいぶん違うんですけどね。今日ここまでできると思ったけど、ダメだもう1日やんなきゃいけないとかね。思ったよりうまくいったから、ここまで行こうとかね。最終的に選手を送り出す段階のことだと、ほぼ予定してたような感じ。あるいはそれ以上に選手がよく理解して働いてくれたようなときもありました。

 例えば、韓国戦の名波のディフェンスの役割なんかね。ディフェンスに対してかなり大きな役割を与えてった。彼は攻撃的な選手だからどこまでそれが発揮できるかは、やってもらわなきゃ困るけれども実は不安な面もあった。でも、彼の試合でのディフェンスに果たした役割というのはものすごい大きなものがありました。

 イラン戦では山口のポジションというのが非常にキーになってたんですけど。彼がどこまで最終ラインをカバーできるか、供給源になるか。両サイドが攻撃参加するためにも彼のポジショニングは非常に重要だったんです。トレーニングで説明したことを非常にうまく実践してくれた。

<日本選手は吸収力が高く、説明したことをすぐに実践できる>

 われわれが考えている以上に選手は非常に高い吸収力を持って試合に臨んでくれた。一人ひとりが素晴らしい吸収力を持っているなと。
 ある課題に関してはそれを説明してトレーニングでやった。だけども説明だけで終わらせなきゃならない部分も、どうしてもでてきた。それをミーティングで説明したらちゃんと実践できる。その能力の高さは本当に素晴らしいと思いました。

 日本中にうまい選手は山ほどいる。その中で彼等が代表というところまで生き残ってきた大きな要素(が吸収力)だと思いますね。ただ言われたからやるというんではなくて、自分の中でしっかりと理解して、自分のプレーとして表現する。そのすごさっていうのはありましたね。

<世界に通用する日本サッカーの確立に向けて>

 賢さ、頭を使いながらやっていくようなプレーを磨いていけば、世界に通用するようなところへ持っていけるんじゃないかと思っています。

 器用さというものは持ってるんじゃないかと思うんですよ。テクニックは非常に優れている。でも、テクニック自体が目的になっているところがあって。必要なときに必要に応じてプレーできるようになる。そのために一人ひとりがクリエイティブになっていくようなところを目指していけば、世界に通用するプレーはできる。

 組織プレーっていうのは個々が最適な判断をしていくことによって生まれると思う。(日本人は)個々の判断というのを資質として持ってると思うんで、そこを磨いていかなきゃいけないなと。そうすると日本の持っている器用さ、瞬間的なスピード、そういったものが世界の中で生かせるんじゃないか。

 良い準備をしていただいて、良いプレーを。結果ももちろん大切ですけれども、世界の人たちが「日本ってこんなに良いサッカーをやるんだな」と、まず感じてくれるような良い準備をしてください。

 そうですね。日本のパフォーマンスを最大限に発揮してぶつかりたいですね。それが必ず次への蓄積にもなるし。  がんばります。

 インタビューは約2時間半にわたって行われた。
 代表コーチとして極めて多忙であり、かつ今の日本代表について発言するにはあまりにも微妙な立場にありながらも、小野氏は終始丁寧な応対で、その発言は冷静で明確だった。代表チームが、岡田監督や小野氏を含めたスタッフが、その力をフルに発揮できることを、そのためのより良い環境が整えられることを願ってやまない。(了)