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フットボールの真実
 

    
 
      

第111回
「アビスパ福岡に対するJリーグ制裁問題」のご意見に答えて



■ジェフ市原の件について言及しなかったのは間違い

 4月19日付でアップしたコラム「フットボールの真実」(第110回)にたくさんの意見・反論をいただきました。

 まず最初に、けっして短くないコラムをしっかりと読んで下さったこと、そして、感情を抑えた意見・反論を書いてくださった皆さんにお礼を申し上げます。(本稿は4月21日までに届いた投書をもとに書かれています。投書の内容はこちらをご参照ください:編集部)

 最初におわびしなければなりません。
 前回のコラムのなかで、4月12日のジェフ市原に言及しなかったのは、私の完全な間違いでした。弁解の余地はありません。同じような「規約違反」を起こしたジェフのことを取り上げなかったことで、議論に混乱を起こし、アビスパ福岡の行動を支持する方々をはじめ多くの人に不快な思いをさせてしまいました。申し訳ありません。
 ジェフの問題に関しては、後にまた触れたいと思います。



■Jリーグ規約第42条の存在意義から考える

 みなさんの意見・反論を読んで、論点となるべきポイントをいくつか整理してみました。
 第1に、規約の「最強チーム(ベストメンバー)」の不明確さ
 第2に、日程の不備
 第3に、カップ戦の位置づけ

 Jリーグ規約の第42条(最強のチームによる試合参加)については前回説明しました。ピッコリ監督は「これが現時点における最強のメンバーだ」と話しています。

 何が「最強」なのか。
 「サッカーには正解はない」というのは、岡田武史・前日本代表監督の口ぐせです。サッカーには無数の可能性があり、どれが正解か、誰にもわからない。ただ、チームの責任者として、ひとつの道を決めて、勝利に向かわなければならない。
 同じように、「最強」を議論すればきりがないように思えます。

 ピッコリ監督の言葉は正直なものであったでしょう。疲れきっている選手より、フレッシュな選手を出したほうが強いに決まっている。これまでリーグ戦では出場チャンスの多くなかった選手たちは、モチベーションの上でも高いはずだし、日ごろの練習を見れば、けっして力が劣るわけはない。だから4月12日にベルマーレと戦う「ベストメンバー」はこの11人だ。

 しかし、この問題に関しては、そうした議論ではなく、規約の目的から「ベストメンバー」の意味を考えるべきだと思うのです。

 この規約の存在意義として、私は先週のコラムで以下の4点を挙げました。
 1.公平性
 2.プロとして勝利のために最善を尽くすこと
 3.アウェーチームの金銭的損害
 4.サッカーくじとの関連

 投書をいただいた樫澤さんは、この規約は「心がけ規定」と解釈すべきだと、示唆に富んだ指摘をされています(読者投書欄「13」を参照)。サッカーに正解はなく、しかも規定自体がこのようにあいまいでは、法律の専門家が見たらそう判断されても仕方はないと思います。

 しかし私は、サッカーのチームがシーズンを戦っていくなかで、「ベストメンバー」が自ずと表れてくるものだと思うのです。

 出場停止、負傷、明らかなパフォーマンスの低下、ポジションを狙っている選手のポテンシャルなど、選手を代える要素は常識として予想される範囲のなかにあります。もちろん、選手の精神状態をはじめ(たとえば家庭問題で悩んでいるなど)、外からはうかがい知ることのできないこともあるでしょう。しかしリーグ戦を戦っている11人の先発メンバー全員がそうした状態であることはありえません。

 サッカーという競技は、試合中の交代数が極端に限られている(アメリカ系のスポーツと比較してください)のが特徴で、たとえばアメリカンフットボールのように試合のなかで「攻撃チーム」と「守備チーム」を交互にプレーさせることも、アイスホッケーのようにFWを3セット用意しておいて次々と代えていくこともできません。また、チームプレーの複雑さから、世界のどんなビッグクラブでも、完全なレギュラーチームをふたつ用意しているようなところはありません。

 そのシーズンでひとつの理想型となるチームがあり、それをベースにいろいろな要素で選手が入れ替わっていくのが、常識的なあり方といえると思います。その時点で、理想型に最も近いのが、「第42条」でいう「ベストメンバー」だと思うのです。

 前回も書きましたが、ピッコリ監督は前後のリーグ戦ではシーズン開幕以来の「ベース」に近い11人を出していますが、その間にはさまったナビスコ杯では、まったく違う選手を出しています。

 ピッコリ監督が「負けてもいい」と考えてこの11人を送り出したとは思いません。「これがベストメンバー」という言葉も、心からのものだと思います。しかし「ベース」からあまりにかけ離れたメンバーでは、やはり「リザーブチーム」と言わざるを得ないのです。



■今回「裁定委員会」が示す判断が、今後の「基準」に

 非常にあいまいな規定ではありますが、規定をつくるにあたって、「何人以上はダメ」という基準を設定するのは無理だったと思います。そうした基準をつくれば「それ以下なら、ベストメンバーを使わなくてもよい」という解釈にもなります。結局のところ、現行のようなあいまいな表現の規定にし、実際の運用で基準を示していくしかなかったと思われます。これまで、この第42条に対する違反が問題になったことはありませんでした。今回、「裁定委員会」が示す判断が、今後の「基準」になっていくと思われます。

 今回の事件を離れてこの規約を考えると、Jリーグが健全な形で運営されるためには、非常に重要な決めごとであると、私は考えています。この規定に「カップ戦」も含めるかは考えるべきポイントですが、少なくともリーグ戦にあっては、どんな状況にあっても遵守されなければならない条項だと思います。樫澤さんの「心がけ規約」という解釈には賛同しかねます。

 前回のコラムで「断固たる制裁を」というような激しいタイトルをつけたのは、そうした考えからでした。あのコラムを書いているとき、私が考えていたのは、Jリーグの態度が煮え切らず、また川淵三郎チェアマン、木之本興三専務理事の発言を新聞記事で読む限り、本質的なポイントから外れているという印象を受けたことでした。だから、「規約違反」は明らかなのだから、きちんと制裁すべきという趣旨の記事を書こうと考えたのです。



■過密日程の中で生まれる不公平

 論点の2、日程の問題について。
 ことしは、6月、9月、10月の3カ月が日本代表(およびオリンピック代表)の日程のためリーグ戦に使用することができません。Jリーグは日程編成に苦労したと思いますが、それにしても、ナビスコ杯の1回戦をこのような形でこの時期に入れたのは、Jリーグの間違いだったと思います。

 カップ戦がリーグ戦の合間の水曜日にはいるのは、ヨーロッパでは常識のことですが、そうして試合が増えるのは、勝ち進んでいる場合が原則です。1回戦をシードされるチーム(前年の成績によるわけですから、当然強豪といわれるクラブのはずです)が5つあり、しかも4月にはいってから土、水、土とリーグ戦が続いた翌週、翌々週の水曜日にカップ戦の1回戦を入れるのは、非常に不公平だったといわなければなりません。

 私は先週の土曜日(4月22日)、柏の葉競技場で柏レイソル対横浜Fマリノス戦を取材しました。マリノスは前半、左CKから4本、相手にノーマークのヘディングシュートを許し、そのうちの2本がゴールになって敗れました。「肉体的、精神的に疲れ切っていて、集中力が足りなかった」とアルディレス監督は語りました。マリノスはナビスコ杯の1回戦をヴァンフォーレ甲府と戦い、一方の柏レイソルは1回戦をシードされていた結果です。



■ヤマザキナビスコカップの位置づけ

 論点の3、カップ戦について。
 Jリーグ・ヤマザキナビスコカップは、92年、Jリーグのスタートの前年に始まった大会ですが、93年にリーグ戦がスタートした年からその存在が疑問視されてきました。ファンの関心も年ごとに低くなっています。リーグ戦に実質的な「降格」が生まれた一昨年から、チームを預かる監督たちにとっては、非常に扱いの難しい大会になっています。はっきり言って、「迷惑」と感じている監督も多いと思います。

 私は、現状では、この大会は廃止し、まずはリーグ戦に全力を投じられるようにすべきだと思っていますが、Jリーグは別の考えをもっています。
 第1に、スポンサーからはいる収入があります。
 第2に、クラブにとっては、収入源となる主催ゲーム数を増やします。
 この大会は、Jリーグだけでなく、各クラブの要請の下に行われているのです。

 しかし現状は、観客数は低迷し、しかもチーム現場を過酷な日程で苦しめています。Jリーグは来年のシーズンまで現在のスタイル(リーグ戦の方式、リーグ戦とカップ戦を並行して行う)を続ける方針とのことですが、ナビスコ杯のあり方については、早急に再検討すべきだと思います。

 こうした状況にあるカップ戦に「第42条」を適用するのが適当かどうか。今回、「アビスパ事件」で制裁を発動せずに済ませるには、その判断が必要だと思われます。

 Jリーグの「裁定委員会」は、今回、規約違反を犯したクラブに対する制裁を実質的にゼロとし、今後の理事会でこの規定からカップ戦を除外するような改正を、チェアマンに諮問する道を選ぶこともできると思います。

 カップ戦でも「第42条」は欠くことのできない規約であるという判断であれば、少なくとも1回戦の時点で不公平がないように、日程を改めなければなりません。

 先週のコラムで多くの人から反論があった点が、「ホームクラブに対する補償」です。
 「ベストメンバー」というものが誰にも証明することができず、ただ、リーグ戦を戦っていくなかで自ずと常識の範囲内で考えるべきものと書きました。
 同じように、ホームクラブの金銭的損害も、正確に算出することはできません。多くの人が指摘するように、4月12日の平塚の観客数は、アビスパがどういうチームを出そうと、変わらなかったかもしれません。

 しかし、「第42条」の存在意味から、制裁金が科せられる場合には、当然、その一部はホームクラブに還元されるべきだと思うのです。たとえば制裁金の10%など、比率を決めて自動的に支払われるべきだと思います。



■規約第42条を生かすか殺すかが問われている

 最後にジェフ市原の問題について触れたいと思います。
 4月12日、大分での大分トリニータ戦のジェフは、アビスパと同様、明らかに規約違反でした。Jリーグからの警告を受けて19日の第2戦で努力したかどうかは、12日の違反とは関係がありません。

ところが、4月22日の報道によれば、Jリーグの木之本専務理事は、「私見だが、ジェフは諮問委員会にかける必要はない」という内容のコメントをしています。

 「言うことを聞くからかわいい。聞かないヤツは憎い」というような取り組み方では、Jリーグの公平性は失われます。専務理事という責任ある立場の人がこのような無責任な発言をすることによって、Jリーグの民主的な運営が脅かされることになります。

 4月12日および19日のアビスパを規約違反として制裁するならば、当然、4月12日のジェフ市原についても同様に扱うべきです。

 熱心な意見・反論をお書きいただいたすべての方のすべての疑問、反対意見にお答えできず、申し訳ありません。

 ひとつだけみなさんに考えてほしいのは、今回の事件が「規約第42条」を生かすのか、それとも殺してしまうのか問われているということです。カップ戦を除外するかどうかは別にして、私は、この規約は、将来的に非常に重要な条項になると考えています。
 みなさんは、どう考えるでしょうか。



        



大住良之(おおすみ・よしゆき)
1951年、神奈川県横須賀市生まれ。
中学生の時、66年ワールドカップ・イングランド大会の放送を見たのがサッカーにのめり込むきっかけになる。74年一橋大学卒業後、ベースボールマガジン社入社、「サッカーマガジン」編集部勤務。78年より編集長を務める。
82年同社退職後、(株)アンサーでトヨタカップなどの来日チームの取材を手がけ、88年よりフリーランスのサッカージャーナリストとして活動。
74年西ドイツ大会以降6回のワールドカップをはじめ、各種の国際大会、世界各国の国内サッカーを取材。新聞・雑誌を中心に、サッカーとその背後にある文化・社会を描くことに定評がある。
「日本サッカーライターズ協議会」事務局長。
女子サッカーのクラブチーム「F.C.PAF」監督。
アジアサッカー連盟選出「1998年フットボール・ライター・オブ・ザ・イヤー」受賞。
主な著書
「新・サッカーへの招待」(岩波書店)
「Jリーグ群像 夢の礎」(あすとろ出版)
「サッカーの話をしよう1〜5」(NECクリエイティブ)
「ようこそ、サッカーの惑星へ」(NECクリエイティブ)
「浦和レッズの幸福」(アスペクト)
「FIFA98ワールドカップ観戦ガイド」(小学館)
「世界のサッカー」(共著、三一書房)